2026.5.8 | #物語/文学
医療過誤弁護士『銀子』の小説が生まれたきっかけ
―フィクションでしか伝えられなかった医療の真実
患者側医療専門弁護士が小説を書いた理由
インタビュアー
弁護士として専門書や実用書ではなく、あえて小説というフィクションの形で発信しようと思われたのはなぜでしょうか。
富永愛先生
最大の理由は、法廷や法律相談では語り尽くせない医療の現実が、あまりにも多いからです。
カルテを読めば、実際に何が起きたのかは相当程度まで把握できます。しかし、医療過誤が疑われる「限りなく黒に近い」ケースであっても、事実を認めようとしない人や、それを守ろうとする組織、お金をできるだけ払いたくない保険会社が大きな壁となって立ちはだかります。
裁判所から「力不足だ」と烙印を押され、これでよかったのかと自問することもありますし、「自分一人の力では医療の構造を変えられないのではないか」と悔しさを覚えることも少なくありません。
こうした思いを共有できる本気の患者側弁護士は決して多くなく、この不合理をより多くの人に知ってもらう必要があると感じてきました。
医療事故や医療訴訟で扱うのは、患者さんやご家族の人生そのものです。医療専門弁護士として厳格な守秘義務を負う以上、「次の被害者が出る可能性がある」と分かっていても、自由に公表することはできません。
その一方で、「なぜこのような医療事件が許されているのか」、「なぜ繰り返すのか」、「なぜ公然とウソをつくこと通用するのか」という憤りは、私の中に積み重なっていきました。
医師を責めることもできず、自分を責めながら、誰にも本当のことを語れずに静かに生きている人々がいます。私はそうした方々に支えられながら、患者側の医療訴訟弁護士としての仕事を続けてきました。
だからこそ、内に蓄積した思いを、フィクションという形で発信する必要があると考えました。それが『銀子』です。
「銀子」は、声を上げられなかった人たちの代弁者
インタビュアー
主人公の銀子は、先生ご自身と重なる部分もありますが、「等身大の自分」なのでしょうか。
富永愛先生
銀子は、私が目指したい理想の姿です。私が医療事件弁護士として日々感じてきた違和感や怒り、迷いを、理想化された銀子という存在を通じて表現したいと考えました。
実際の医療過誤や医療事故は、小説よりもはるかに悲惨で、かつ複雑です。そして、その中で必死に生きている人々は、もっと強く、もっと深い存在です。その姿に、大げさではなく本当に涙することもあります。小説では筆力の限界もあり、そのすべてを十分に描写できていない可能性があります。
作中の事件は、私が実際に担当してきた医療訴訟や医療裁判の経験を、単純化して分かりやすい形に再構成したものです。その根底には、現実に起きた生々しい事実と記憶があります。執筆中にも、ご遺族やご家族の顔が浮かび、感情が込み上げることもありました。
被害に遭った方々の多くは、社会的な二次被害を恐れ、沈黙の中で静かに暮らしています。「亡くなった家族を金銭目的で利用している」といった心無い言葉を向けられることもあります。
だからこそ、直接は語れなかった多くの声を、フィクションという形で世の中に届けたいと考えました。
フィクションでしか見せられない医療の闇、医療過誤の真実
インタビュアー
病院内の隠蔽体質や組織の問題が非常にリアルに描かれています。執筆の際に意識された点は何でしょうか。
富永愛先生
小説を執筆する中で、フィクションの持つ伝達力を強く実感しました。
医療事故の現場には、想像を超えるほどグロテスクな現実が存在します。しかし、人はあまりにも過酷な事実を前にすると、自らを守るために目を背けてしまいます。
だからこそ、私が実際に見てきた医療現場の事実を、架空の人物を通して、できる限り生々しく描く必要があると考えました。医学用語も、一般の読者が理解できる表現に置き換える工夫を重ねています。
裁判官数人に向けた訴状とは異なり、多くの読者に届くという点でも、フィクションは重要な手段です。
報道関係者に実際の医療紛争の話をすると、「そんなことが本当にあるのか」と驚かれることがあります。多くの人は、医療の世界がそこまで歪んでいるとは信じたくないのだろうと思います。
しかし、「医療は正しく機能しているはずだ」という思い込みこそが、医師と患者の溝を深めてきました。現実を変えるためには、まず真実を見ることが不可欠だと考えます。私は、フィクションという形式を用いて、その真実を少しずつ社会に伝えていきたいと考えています。
医療過誤と闘った先駆者から受け継がれた“書く使命”
インタビュアー
『銀子』には、実在の弁護士の影響があると伺いました。
富永愛先生
はい。『銀子』に登場する患者側の弁護士・寺山美和には、モデルになった方がいます。大阪で活動されていたT先生です。
もしT先生に出会っていなければ、『銀子』を書こうとは思わなかったと思います。
T先生はご自身も小説を書いておられました。ある病院での医療過誤を訴えるために病院の玄関で焼身自殺を図られたというショッキングな事件が起こっていた時期でした。「なんでこんなことが起きるのかを知ってほしい」と話しておられました。亡くなられた後も、その未完の原稿のことが気になっていました。『銀子』を書く機会を得たときに、「T先生の代わりに自分が書くべきだ」と強く感じました。
『銀子』は、T先生へのオマージュであると同時に、「先生、見ていてください」という気持ちでもあります。
人が人生を削って残したものを、誰かが受け取り、次の形へとつないでいく。その連鎖の中に、私自身もいるのだと感じています。
2026年5月15日、
角川春樹事務所「ハルキ文庫」より発売。
医療の真実と向き合い続けてきた患者側医療専門弁護士が、
“フィクションでしか描けなかった現実”を描く。
発売まで今しばらくお待ちください。
【ご予約・ご購入はこちら】
医療過誤でお悩みの方へ
患者側専門の医療訴訟弁護士として、まず「何が起きたのか」を一緒に整理します
医療事故や医療過誤に直面したとき、多くの方は
「これは仕方なかったことなのか」
「誰かのミスなのか」
「病院の説明を信じていいのか」
が分からないまま、深い不安の中に置かれます。
私は、患者側専門の医療専門弁護士として、カルテ・検査結果・診療経過を医学的・法的に読み解き、「何が起きたのか」「争うべきか」「争うべきでないか」を、正直にお伝えしています。無理に裁判を勧めることはありません。しかし、争うべき医療過誤を見逃さないことは、患者側弁護士としての責任だと考えています。
こんな方はご相談ください
- 突然の死亡・重い後遺障害について、病院の説明に納得できない
- 医療過誤かどうか分からないが、モヤモヤが残っている
- 他の弁護士に相談したが「医療は難しい」と言われた
- 病院や保険会社の対応に不信感がある
- 裁判をすべきか、話し合いで解決すべきか判断できない
ご相談の流れ
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1. お問い合わせ
フォームまたはお電話でご連絡ください。
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2. 資料の確認
お持ちのカルテ・診療情報・説明書などを拝見します。※揃っていなくても構いません。
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3. 医学的・法的な初期評価
医療専門弁護士として、医療過誤の可能性と今後の選択肢を整理します。
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4. 方針のご説明
訴訟・示談・何もしない、すべての選択肢を正直にお伝えします。

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この記事を書いた人
(プロフィール)富永愛法律事務所
医師・弁護士
富永 愛(大阪弁護士会所属)弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。