journal/コラム

2026.3.2 | #医療 #法律

依頼者・残されたご家族との向き合い方

富永愛法律事務所:内観

ゴールは「新しい扉を開く」こと

― 依頼者と残されたご家族に寄り添い、未来へ導く弁護士の使命

医療事故や出産事故によって、大切な家族を突然失ったとき、残されたご家族は深い悲しみとともに、「なぜ起きたのか」という問いを抱え続けることになります。
医療過誤の問題は、医学的知識と法律的判断の両方が関わる極めて専門性の高い領域です。そのため、患者やご家族だけで真実にたどり着くことは容易ではありません。
医師免許を持つ医療分野専門弁護士として、医療過誤・出産事故などの案件に向き合ってきた富永愛弁護士。患者側弁護士/医療訴訟弁護士として、数多くのご家族に寄り添ってきた経験から見えてきたのは、
「真実を知ること」だけではなく、
「残された人生を前に進めるための支えを届ける」ことの大切さでした。

本記事では、医療事件弁護士としての経験を通して、ご遺族・依頼者とどのように向き合い、どのような変化が生まれていくのか。その信念と実際の関わり方についてお伝えします。

相談に来るだけで精一杯

▶インタビュアー

最初に相談に来られるご家族は、どのような状態の方が多いのでしょうか?

▶富永先生

医療事故や出産事故によって突然大切な家族を失った方、あるいは重い障害が残る結果となったご家族が、初めて相談に来られるとき、多くの方は本当に疲れ切った状態です。
オンラインで画面越しの相談であっても、疲れ切った様子で、身だしなみに気を配る余裕もなく、相談の場に来るだけで精一杯という様子が伝わってきます。

医療事故という話題は、周囲にも簡単には話せません。
「病院に責任があるかもしれない」という言葉は重く、誰かに受け止めてもらえる場所がほとんどないからです。
そのため、ただ話を聞いてもらえただけで、涙が止まらなくなる方も多いです。
医療過誤の相談の場は、法的手続きを始める場所である前に、初めて思いを言葉にできる場所でもあるのだと思います。

罪悪感から始まる、ご家族の時間

▶インタビュアー

ご家族はどのような思いを抱えて相談に来られるのでしょうか?

▶富永先生

相談に来られる多くのご家族が、最初に抱えているのは「怒り」ではありません。
それよりも深く重い、「自分のせいではないか」という罪悪感です。
「あの病院を選んだのは自分だった」
「もっと早く別の選択をしていれば助かったのではないか」
「連れて行った判断が間違っていたのではないか」
大切な人を失ったあと、理由を求める心は自然なものです。しかし、その矛先が自分自身に向かってしまうことで、心はさらに深く傷ついていきます。

だからこそ最初に必要なのは、法的な説明ではありません。
「あなたのせいではありません」と言葉にして伝えることが、ご家族の時間を前に進める第一歩になることがあります。

カルテが“真実の輪郭”をつくる

▶インタビュアー

事実関係を知ることは、ご家族にとってどんな意味がありますか?

▶富永先生

疑問や後悔、さまざまな思いが渦巻く中で、ご家族は次第に「本当は何が起きていたのか」を知りたいと願うようになります。
医療の現場で何が起きていたのかは、感情や印象だけでは見えてきません。その輪郭を浮かび上がらせる手がかりとなるのが、カルテです。
カルテには、いつ、誰が、どのような処置や判断を行ったのかが記録されています。
そこから、医療現場で実際に起きていたことが、時間の流れとして見えてきます。

ときには、ぶっきらぼうに見えた医師が、夜間も含めて細やかに対応していたことがわかる場合もあります。
また、ご本人の意思に基づき、家族へ伝えない選択がなされていたことが明らかになることもあります。
亡くなった後になって初めて見えてくる事実が、ご家族の中にあった疑念や誤解を静かに解きほぐしていくことがあります。

真実の先にある、本当の望みを言語化する

▶インタビュアー

真実が見えてきた後、ご家族の気持ちはどのように変化していくのでしょうか?

▶富永先生

事実が見えてくると、多くの方が「許せない」という思いを抱きます。
それは自然な感情であり、無力感から抜け出すためのエネルギーでもあります。
しかし、話を重ねていく中で、ご家族の願いは次第に整理されていきます。
「真実を知りたい」
「謝ってほしい」
「責任を認めてほしい」
「同じことが二度と起きないでほしい」
最初は一つの言葉で表現されていた思いが、少しずつ輪郭を持ち、本当に望んでいることが明らかになっていきます。
日本ではお金の話をすることに抵抗がある方も少なくありません。しかし、賠償は単なる金銭ではなく、失ってしまった大切な命の代償。賠償請求をすることは責任の明確化であり、再発防止の一歩であり、残された人生を支える現実的な基盤でもあります。
その意味を丁寧に整理していくことで、ご家族は自分の望みを率直に言葉にできるようになっていきます。

選べるようになると、人は前を向ける

▶インタビュアー

手続きの過程の中で、ご家族に変化は見られますか?

▶富永先生

深い悲しみの中にいると、人は選択する力を失います。
何をどう決めればよいのか分からず、自分だけが止まった時間の中におかれていると感じられることもあります。
しかし事実が整理され、選択肢が見えるようになると、人は少しずつ決断できるようになります。
交渉を進めるのか。
裁判に進むのか。
あるいは、ここで一区切りとするのか。
一つひとつの選択を自分の意思で決めていく過程そのものが、前へ進む一歩となります。
最初は沈んだ声だった方が、次第に言葉に力を取り戻していく。髪を整え、表情が柔らかくなる。生活の中に、少しずつ自分自身の日常が戻ってくる。その変化は、時間が解決するのではなく「選べる状態」に戻ったときに訪れるのだと思います。
たとえば、お嬢さんを亡くされたお父様が、ある日、きちんとスーツを着て裁判所に来られたことがありました。その足元には明るい水玉模様の靴下。その装いから、少しずつ自分の生活を取り戻されていることが伝わってきて、胸が熱くなったのを覚えています。
また、一人娘を亡くされたご両親のケースでは、当初は深く落ち込まれていたお母様が、髪の手入れもできない状態でした。それが時間の経過とともに、白髪を染め、明るい髪色に変わり、装いもおしゃれになり、声も少しずつ明るくなっていかれたのです。
そうした変化を見るたびに、「前を向いて歩き始められたのだな」と感じ、「よかった」とほっとします。

新しい扉を開くために、“手の上に残すもの”

▶インタビュアー

賠償という結果は、ご家族にとってどのような意味を持つのでしょうか?

▶富永先生

裁判や交渉の結果として支払われるお金は、命の代わりになるものではありません。どれほどの金額であっても、失われた存在が戻ることはありません。
それでも、そのお金は残された人生を支える現実的な力になります。
あるご家族は、亡くなった奥様と「いつか一緒にやりたい」と話していた夢を形にされました。コーヒーが好きだった奥様との思い出を胸に、焙煎を学び、自分の手でコーヒーをつくる仕事を始められたのです。
「妻も喜んでくれると思います」
そう言って届けてくださったとても美味しいコーヒー豆。私は、今日もいただいています。その香りに触れるたび、亡くなった方の存在が、ご家族の人生の中で形を変えて生き続けていることを感じます。
賠償は終わりではなく、新しい生活を歩むための資本です。過去を裁くためだけではなく、未来を選び直すための支えでもあります。
医療専門弁護士としての役割は、感情に寄り添うだけでなく、残された人生を前に進めるために、現実として手の上に残るものを渡すことだと考えています。
それが、新しい扉を開く力になると信じています。

丁寧に向き合うために、大切にしていること

▶インタビュアー

多くの相談が寄せられる中で、大切にされていることは何でしょうか?

▶富永先生

医療過誤の相談は、一つひとつが人生そのものに関わる重い出来事です。
事実を読み解き、ご家族の思いを整理し、最適な選択を共に考えていくには、多くの時間と労力が必要になります。
そのため、すべての案件を一人で引き受けることは現実的に難しく、私一人が受任できる件数にはどうしても限りがあります。どうしても今はお引き受けできない、とお断りせざるを得ないときもあります。
しかし、それは決して相談に来られた方を遠ざけるためではありません。一件一件、時間をかけて丁寧に向き合い、責任をもって伴走するための選択です。
必要に応じて信頼できる医療事件弁護士や専門家をご紹介しながら、相談された方ができるだけ置き去りにならない形を大切にしています。
どのような形であっても、「あなたのせいではない」と伝え、これからの人生を前に進めるための道筋を共に探すこと。その思いは変わることはありません。

 

医療過誤でお悩みの方へ

患者側専門の医療訴訟弁護士として、まず「何が起きたのか」を一緒に整理します

医療事故や医療過誤に直面したとき、多くの方は
「これは仕方なかったことなのか」 「誰かのミスなのか」 「病院の説明を信じていいのか」 が分からないまま、深い不安の中に置かれます。
私は、患者側専門の医療専門弁護士として、カルテ・検査結果・診療経過を医学的・法的に読み解き、「何が起きたのか」「争うべきか」「争うべきでないか」を、正直にお伝えしています。無理に裁判を勧めることはありません。しかし、争うべき医療過誤を見逃さないことは、患者側弁護士としての責任だと考えています。

こんな方はご相談ください

  • 突然の死亡・重い後遺障害について、病院の説明に納得できない
  • 医療過誤かどうか分からないが、モヤモヤが残っている
  • 他の弁護士に相談したが「医療は難しい」と言われた
  • 病院や保険会社の対応に不信感がある
  • 裁判をすべきか、話し合いで解決すべきか判断できない

ご相談の流れ

  • 1. お問い合わせ

    フォームまたはお電話でご連絡ください。

  • 2. 資料の確認

    お持ちのカルテ・診療情報・説明書などを拝見します。※揃っていなくても構いません。

  • 3. 医学的・法的な初期評価

    医療専門弁護士として、医療過誤の可能性と今後の選択肢を整理します。

  • 4. 方針のご説明

    訴訟・示談・何もしない、すべての選択肢を正直にお伝えします。

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  • この記事を書いた人
    (プロフィール)
    富永愛法律事務所
    医師・弁護士 
    富永 愛(大阪弁護士会所属)

    弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
    外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
    医療と法律の架け橋になれればと思っています。