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2026.5.14 | #医療 #法律

医療事故が疑われたとき、 ご家族がやってはいけない5つのこと

医療事故が疑われたとき、ご家族がやってはいけない5つのこと

大切な家族が手術や入院中に予期せぬ事態に見舞われたとき、誰もが怒りや悲しみ、困惑の中に置かれます。その感情は自然なことです。しかし、その直後にとった行動が、後の真相究明や適切な解決を大きく左右してしまうことがあります。
富永愛法律事務所では、医師免許を持つ医療過誤専門弁護士として、数多くの相談・事件に関わってきました。そこで繰り返し目にしてきた「やってはいけない行動」を、わかりやすくまとめました。
「自分には関係ない」と思いながらも、もしもの時のために、ぜひ一度お読みください。

NG① 感情に任せて、その場で病院を責め立てる

医療事故が疑われた直後、担当医や看護師を責め立てたり、病院に怒鳴り込んだりするご家族は少なくありません。その気持ちは十分に理解できます。しかし、この行動が後々の真相究明を難しくしてしまうことがあります。

担当医が説明の場から引っ込んでしまう

感情的な対立が起きると、病院側は「患者さん・ご家族と直接話すのは難しい」と判断し、担当医が表に出てこなくなることがあります。現場を一番よく知っているのは担当医です。その人から直接話を聞く機会は、一度失うと取り戻せないことがあります。

防衛的なカルテが作られるリスク

激しく責め立てられた側は、自分を守ろうとする心理が働きます。すると、後から自分に都合のよい内容のカルテが作られてしまう可能性があります。多くの医師や看護師は誠実に記録を残しますが、強い恐怖や怒りにさらされると、その誠実さが失われてしまうことがあります。

「一旦、向こうの話を聞く」ことの大切さ

病院側の説明に嘘が含まれていたとしても、その説明を文書や録音として残しておけば、後から「嘘をついていた証拠」として使えます。まずは「文書で説明してほしい」と穏やかに求め、向こうが何を言うのかを冷静に聞いておくことが、長い目で見て有利に働きます。

NG②「弁護士を呼ぶぞ」「訴える」と早期に宣言する

NG①と似ているようですが、こちらは「法的手段をちらつかせる」という点で、別の問題を引き起こします。

現場の医師・看護師は萎縮するだけ

弁護士や訴訟をほのめかされた現場スタッフは、萎縮し、口を閉ざすか、証拠を固めようとする方向に動いてしまいます。また、賠償や謝罪について判断できるのは、クリニックの院長や大病院のトップであり、現場の担当医ではありません。現場の人を追い詰めても、問題の解決にはつながりません。

弁護士への相談は早めに、でも病院には言わなくていい

弁護士への相談はできるだけ早い段階で行うことをお勧めします。ただし、「弁護士がいる」と病院側に告げるのは、また別の話です。弁護士が前面に出るタイミングは、状況に応じて慎重に判断する必要があります。

その場で示談・補償に同意しない

病院側から「補償したい」「示談にしたい」と申し出があっても、その場で決断する必要はありません。「一度持ち帰って家族と相談し、〇〇日までにお返事します」と伝えれば十分です。感情が高ぶっている状況での即断は、後悔につながることがあります。

NG③ 記録を「きれいに整理」して上書きしてしまう

これは見落とされがちなNG行動です。「ちゃんと整理してから弁護士に相談しよう」という真面目な気持ちから、かえって大切な証拠を消してしまうことがあります。

「生データ」こそが証拠になる

手書きのメモ、LINEのやりとり、陣痛アプリの記録、通話履歴—こうした「その時に残されたもの」が、法的な証拠として強い意味を持ちます。
たとえば、チラシの裏に走り書きしたメモも、そのチラシの発行日が特定できれば「その日付に書かれた記録」として信憑性が高まります。スマートフォンの着信・発信履歴も、スクリーンショットをそのまま保存しておくだけで重要な証拠になり得ます。

整理・転記・コピペはNG

大切なのは「きれいさ」ではなく「当時のままであること」です。スマートフォンのメモアプリに書き足したり、LINEのやりとりをコピペしてまとめたりすると、ファイルの更新日が「整理した日」に変わってしまい、証拠としての価値が下がってしまいます。

実際にあった事例

当事務所に相談に来られたご夫婦は、病院でのやりとりを一生懸命まとめた「時系列メモ」を持参してくれました。しかし元のLINEのやりとりや通話履歴はそこに転記された後、上書きされて残っていませんでした。コピペで作られた文書のタイムスタンプは「整理した日」になってしまっており、元のやりとりの日付を証明できなくなっていたのです。
また別のケースでは、担当医が「患者のご家族に電話したが通じなかった」とカルテに記載していましたが、実際にはその電話番号はどこにも伝えておらず、着信履歴にも残っていませんでした。こうした「つじつまの合わない記録」は、後から丁寧に照合していくことで明らかになります。ご家族が当時の生のやりとりを残していたことが、重要な手がかりになりました。
どんな走り書きでも、チラシの裏のメモでも、「当時のまま」「そのままの形で」保存しておいてください。

NG④(亡くなったケース)解剖を拒否する

これは特に、入院中や手術後に亡くなってしまったケースに関わるNG行動です。

ご遺体には、他では得られない証拠が残っている

亡くなった直後、多くのご家族が解剖を拒否されます。「大切な体にメスを入れたくない」というお気持ちは当然です。しかし法的観点から言えば、ご遺体にはそれ以外では絶対に得られない証拠が残っています。
解剖は「何が死因だったか」を示すだけでなく、「他の病気がなかったこと」を証明する手段にもなります。たとえば病院側が「心臓の問題だった可能性がある」と説明した場合でも、解剖によって心臓には何の異常もなかったと示せれば、死因の絞り込みに大きく役立ちます。

特に「突然死」「産科事故」では解剖が唯一の物的証拠

何ヶ月も入院の末に亡くなったケースとは異なり、突然の死亡や産科での事故では、ご遺体に残る情報が唯一の証拠になることが少なくありません。
産まれてすぐに亡くなってしまった赤ちゃんのケースでも、解剖によって「遺伝的な問題ではなく、医療行為が原因だった」と判明し、ご家族が納得された事例があります。

希望は早めに、書面でも伝えておく

解剖を希望する場合は、亡くなった直後にできるだけ早く病院側に伝えることが重要です。ご遺体が葬儀社に引き渡されてしまうと、解剖は事実上できなくなります。また、強い不信感がある場合は「別の病院(大学病院等)での解剖」を希望することもできます。

解剖を断られたとしたら、それも重要なサイン

「死因はよくわかりません」と説明しておきながら、解剖を勧めなかったり、希望を断ったりする場合は、それ自体が大きな疑問点です。なぜ死因を調べることを嫌がるのか—その態度が、後の判断の材料になります。

解剖が難しければ、死後Ai(CT撮影)だけでも残しておく

「大切な体にメスは入れられない」というお気持ちがある場合、せめて死後Aiの撮影だけでも希望してください。死後Aiとは、亡くなった後にCTなどで撮影を行い、メスを入れることなく体内の状態を記録する診断方法です(Autopsy imaging/死後画像診断)。解剖ほど詳細な情報は得られませんが、外傷・出血・臓器の状態などを画像として残すことができます。
「解剖はできないが、何も記録を残さないまま荼毘に付すことへの不安がある」そういう場合の選択肢として、死後Aiは有効です。希望する場合は、亡くなった直後にできるだけ早く病院側に伝えてください。時間が経つほど、選択肢が狭まります。

NG⑤ 警察への早期介入を急ぐ

「警察に届ければ、ちゃんと調べてもらえる」と思われる方もいます。しかし医療事故においては、早期の警察介入がかえって不利になるケースがあります。
司法解剖になると、遺族に情報が開示されない
警察が関与すると「司法解剖」が行われることがあります。司法解剖は国が刑事事件として調査するためのもので、その報告書は遺族に見せてもらえないのが原則です。仮に不起訴になった場合でも、情報の開示は警察署の判断次第であり、民事裁判になっても提出してもらえないことがあります。
一方、病院に依頼して行う「病理解剖」であれば、その結果をご遺族が確認できます。死因を究明したいのであれば、病理解剖の方が遺族にとって有益です。

警察は民事賠償の専門家ではない

警察官が親身になって「これは賠償を求めるべきだ」と言ってくれることがあります。しかし警察は、示談交渉や民事裁判の専門家ではありません。警察先行で事態が動いてしまうと、報道につながったり、病院側が示談に応じにくくなったりすることがあります。
警察が関わる段階になったら、早めに医療事故に詳しい弁護士にも相談することをお勧めします。

まとめ:直後にやっておくべき3つのこと

やってはいけないことの反対側に、直後に取っておくべき行動があります。
● わからないことは「文書で説明してほしい」と穏やかに求める
● メモ・LINE・録音・通話履歴など、記録は「当時のまま」の形で残す
● (亡くなったケース)解剖または死後Ai(CT)の希望をできるだけ早く伝える

これらは特別な知識がなくてもできることです。
「きれいに整理しなければ」「すぐに戦わなければ」と焦る必要はありません。まずは記録を残し、冷静に情報を集める。それが最も大切な第一歩です。

何からすればいいかわからない、今まさに困っているという方は、ぜひ富永愛法律事務所へご相談ください。医師免許を持つ弁護士として、医療・法律の両面からご家族に寄り添います。

医療過誤でお悩みの方へ

患者側専門の医療訴訟弁護士として、まず「何が起きたのか」を一緒に整理します

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私は、患者側専門の医療専門弁護士として、カルテ・検査結果・診療経過を医学的・法的に読み解き、「何が起きたのか」「争うべきか」「争うべきでないか」を、正直にお伝えしています。無理に裁判を勧めることはありません。しかし、争うべき医療過誤を見逃さないことは、患者側弁護士としての責任だと考えています。

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  • この記事を書いた人
    (プロフィール)
    富永愛法律事務所
    医師・弁護士 
    富永 愛(大阪弁護士会所属)

    弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
    外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
    医療と法律の架け橋になれればと思っています。